「蠅の王」 [映画]
蝿の王 楳図かずお オリジナルジャケット限定仕様 [DVD]
- 出版社/メーカー: IVC,Ltd.(VC)(D)
- メディア: DVD
ノーベル賞作家ウィリアム・ゴールディングが書いた「蠅の王」は、
僕が最も好きな小説のひとつ。
「陸軍幼年学校の生徒たちを乗せた飛行機が墜落し、生き残った24人の少年たちが、
近くの無人島へ漂着する。最初は生き残るために互いに協力し、無人島からの救出
を願う彼らだったが、やがて少しずつ、理性と秩序を失ってゆく」
その傑作小説をピーター・ブルック(あの『マラー/サド』の監督)が、
1963年に映画化したのがこの作品。
日本未公開でソフト化もされていなかったのが、ついにDVD化されると聞き、
Amazonで予約して、届いたその日に観ました。
凄いという評判はずっと聞かされていたけれど、
ここまで原作に忠実な映画化とは思っていませんでした。
子供たちの演技はあくまで自然で、特に演出上の誇張もなく、
ドキュメンタリーのように淡々と物語が進んでいくのですが、
それがかえってシリアスな怖さを際立たせています。
ゴールディングの原作を愛する方、
そして楳図かずおの『漂流教室』を愛する方にお薦めします。
「山の音」と「乱れる」 [映画]
橋本孤蔵さんのブログに
墓場まで持って行きたい、ベスト1の外国映画は『お熱いのがお好き』
日本映画のベスト1は『洲崎パラダイス・赤信号』
と書いてあるのを読んで
http://blog.livedoor.jp/sakamakikirara/
じゃあ、僕が“墓場まで持って行きたい映画”は何かと考えたところ、
思い浮かんだのは、成瀬巳喜男監督作品でした。
でも、一本だけを選ぶのは難しい。
基本的に成瀬映画には駄作というものは一本もなく、
代表作とされている『浮雲』以外にも、
傑作がたくさんあるからです。
臨終の時、棺桶に入れてもらうことを考慮して、
DVD化されている中から選ぶとすれば、
『山の音』と『乱れる』でしょうか。
どちらもメロドラマのカテゴリーに区分けされてしまう作品ですが、
僕に言わせれば“ラブ・サスペンス”。
前者は貞淑な妻とその義父、後者は戦争未亡人とその義弟の
微笑ましいような日常を淡々と描きながら、
少しずつ、平凡な日常がパランスを崩し、
ドキドキのサスペンスに転じていく‥‥その演出が凄い。
DVDになっていない中では
『驟雨』と『秋立ちぬ』が特に好き。
この2作もできるなら棺桶に入れたい(笑)。
成瀬巳喜男という人は東京府四谷(現在の東京都新宿区)生まれで、
僕と同郷というのも、シンパシーを感じる理由かもしれません。
「スカイフォール」 [映画]
007/スカイフォール 2枚組ブルーレイ&DVD (初回生産限定) [Blu-ray]
- 出版社/メーカー: 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
- メディア: Blu-ray
ダニエル・クレイグの007は大好きなのですが、
傑作「カジノロワイヤル」に比べて
「慰めの報酬」の出来が今ひとつだったので、
映画館に行く気にはなれず、
最近になってテレビで観ました。
いや、面白いです。007シリーズの中でも異色の作品です。
ボンドガールがほとんど活躍しないかわりに、
ジュディ・デンチ演じるMがほとんど主演女優の扱い。
しかも、ボンドと最強の敵=元MI6エージェント・シルヴァとの、
ドロドロした三角関係の恋愛ドラマのような濃密な展開。
Mを命懸けで守ろうとするボンドなんて初めてじゃないでしょうか。
ボンドのプライベートカーとして登場するアストン・マーチンDB5が
スコットランドを疾走するシーンにも痺れました。
最後の“生き残った二匹のネズミ”同士の虚しい死闘もいいです。
美しい映画です。お薦めします。
「アーティスト」 [映画]
昨年のアカデミー賞で、作品賞、監督賞、主演男優賞など5部門を受賞し、
本当の主演男優であるジャック・ラッセル・テリアのアギーが、
犬のアカデミー賞「ゴールデン・カラー賞(金の首輪賞)」で
最優秀俳優犬賞を受賞した作品。
WOWOWの放送でやっと観ました。
「1927年のハリウッド。スター俳優のバレンタインは新人女優のペピーを見初めて
彼女を人気女優へと導く。だが、折しも映画は無声からトーキーのへの移行期。
無声映画に固執するジョージが落ちぶれていく一方で、
ペピーはスターへの階段を駆け上がっていく‥‥」
物語はいたってシンプル。演出にも特に驚かされるところはありません。
とにかく、アギーが可愛い。この作品はそれに尽きます。
ジャック・ラッセル・テリア独特の仕草、表情、身のこなし。
もう、可愛くってたまらない。
ジャック・ラッセル・テリアの飼い主は必見。
そうでない方には‥‥無理にはお薦めしません(笑)。
「ドラゴンタトゥーの女」 [映画]
これも昨年話題になった作品ですが、
最近になってやっと観ました。
原作小説も読んでないし、タイトルのイメージから、
「羊たちの沈黙」みたいなおどろおどろしい作品を期待していたら、
拍子抜けするほどスタンダードなミステリーでした。
わかりやすく説明すると、
「財界汚職事件の告発記事を書きながら名誉棄損裁判で敗訴した記者と、
天才的なハッカーで心に闇を持つ“ドラゴンタトゥーの女”が、
40年前に起きた少女失踪事件の謎を解く」という話。
ミステリー映画としては驚くような内容ではないけれど、
恋愛映画として観ると、なかなかいいです。
まあ、ロマンチックな感じはかけらもありませんが、
社会不適合者で恋愛に不器用な“ドラゴンタトゥーの女”ことリスベットが、
おっさん記者のミカエルに、一途な想いを抱いて、
命懸けで彼を守ってしまうところなんかは、
けっこう胸キュンものです。
ラストもすごく切なくて、僕は大好き。
「哀しき獣」 [映画]
僕は基本的に暗くて、重くて、ラストに救いがない映画が好き。
普段自分が書いてるのが明るく健全な作品なだけに、
ストレスが溜まってくると、暗くて暴力的な映画ばかり観てしまいます(笑)。
そんなわけで、最近観た中で一番好きなのがこの映画。
映画の内容をすごく簡単に説明すると、
「2つの異なる犯罪組織が、別々の依頼者から別々の動機で、
ひとりの大学教授の殺人を請け負ってしまったため、
混乱し、結果として組織同士が殺し合いをすることになる」‥‥という話。
これだけ書くと、ありがちなストーリーのように感じますが、
殺し合いの仕方が凄い。使う武器は、牛刀、手斧、そして動物の骨。拳銃なんて使わない。
だからもう、見てるだけで痛い。
この監督の前作「チェイサー」も痛みの表現が際立ってましたが、
今回はその“痛み”に“寒さ”の描写が加わって、さらに痛さが増してます。
僕が感心したのは、その凄惨な殺戮場面の合間に出てくる“食事”のシーンが、
すごく美味しそうに撮れていること。
特にハ・ジョンウ演じる主人公がコンビニでカップラーメンを食べるところは圧巻。
こんなに残酷な映画で、観ててお腹がすいたのは初めて(笑)。
食事の演出に手を抜かないのが一流監督の証。これは僕の持論ですが、
ナ・ホンジン監督にはその資質が十分にあると思います。
「利休」 [映画]
1989年製作の松竹映画。最近DVDが再発になったので、買いました。
もちろん、公開当時にも映画館で観ましたが、
その時はワダエミの衣装と秀吉の濃いメイクが黒澤明の「乱」そっくりなのが気になって、
それほど評価はしませんでした。
20数年ぶりに見返すと、当時より茶の湯の知識がついたせいか、すごく面白い。
特に三国連太郎の利休はいいですね。
侘びの中に生々しい“艶”があり、聖と俗とを往き来する戦国茶人・千利休を見事に体現しています。
井川比佐志の山上宗二もとてもいい。
この映画を観れば、千利休と山上宗二の関係が端的に理解できます。
ただし、山崎努の秀吉は立派すぎる。
そのため、秀吉が利休に対して抱いていたであろうコンプレックスや屈折した愛情が、
うまく表現されていない。そこが残念なところです。
とにかく、千利休を知る上でこれほどわかりやすいテキストは他にありません。
この映画を観てから、「私は利休」を読んでいただくと、
面白さが倍増するのではないでしょうか。
「博奕打ち 総長賭博」 [映画]
GWから先週にかけて、
「ハリー・ポッターと死の秘宝 」とか「ブラック・スワン」とか、
録画しておいた映画を10本くらい立て続けに観たのですが、
抜群に面白かったのがこの作品。
1968年公開の、山下耕作監督、笠原和夫脚本、鶴田浩二主演の任侠映画で、
三島由紀夫が絶賛したことでも知られています。
ものすごくざっくり説明すると、
博徒一家の総長が病に倒れ、その跡目相続をめぐって、
“渡世の掟”と“男の意地”と“陰謀”が複雑に絡み合い、
理不尽な理由で、登場人物がどんどん不幸になり、死んでいく物語です。
21世紀の現代人の視点からすると、もはや不条理劇ですが、
笠原和夫の脚本が素晴らしく、構成に一分の隙もないので、
ツッコミを入れる間もなく一気に観てしまいます。
実はこの映画、20年くらい前にも映画館で観ています。
その時にも面白いと思ったけれど、ここまで感心はしませんでした。
それは、マンガ原作の仕事をするようになってから、
演出よりも脚本に重きを置いて観るようになったからだと思います。
とにかく笠原和夫の脚本は凄い。勉強になります。
「カラフル」 [映画]
『河童のクゥと夏休み』の原恵一監督が手がけたアニメ映画。
「ある大きな罪を犯して天界を彷徨っていたひとつの魂に、
人間界に戻って再チャレンジのチャンスが与えられた。
その魂は、自殺した中学三年生の少年の体に“ホームステイ”し、
半年ほどの“やり直しの人生”を送ることになった‥‥」
「もう一度中学生になって人生をやり直したい」。それは誰しも思うことですが、
もしかしたら今のこの人生が、すでに「やり直しの人生」なのかもしれない。
観ながら、そんなことを考えました。
「人生が一度しかない」なら「悔いのないように生きる」ことは大切だけど、
生まれ変わるのだとすれば、悔いがあってもかまわない。
そもそも「人生は後悔の連続」なのだから、
「悔いのないように生きる」というのは「太らないように食べる」と同じくらい、
矛盾した言葉なんじゃないだろうか‥‥などと、
まあ、いろんなことを考えたり、思ったりしてしまう作品です。
秋の夜長に観るにはぴったりの一本です。おすすめします。